微分積分学 §1 数列の収束
高校までは「収束する」「発散する」などを乱用してきたが、それらには曖昧性がかなりある。例えばよく「極限値が存在する」などというが、厳密な意味で存在すると言っているのだろうか。まず「収束する」とはどういうことかを厳密に定義できていないのではないか。大学での微分積分ではまず高校まで曖昧にしていた部分を厳密に示し(ε-δ論方)、新たな手法や概念(テイラー展開、広義積分)を学ぶ。
まずは大事な定理から。
Th1.1
数列{a(n)}は以下の二つの条件を満たすとする。
(1)∀n∈Nについてa(n) <= a(n+1)
(2)あるM∈Rに対して任意のn∈Nでa(n) <= M
⇒{a(n)}はn →∞で収束し、その値lim(n→∞)a(n)はM以下である。
これはつまり「単調非減少で上に誘拐な数列は(有限な)極限値を持つ」ということ。
この定理の証明は§2で行う。
次に定義
Def1.2(単調性の定義)
(a)∀n∈N, a(n) < a(n+1) : 単調増加
∀n∈N, a(n) <= a(n+1) :単調非減少
∀n∈N, a(n) > a(n+1) :単調減少
∀n∈N, a(n) >= a(n+1) :単調非増加
(b){a(n)}が上に有界(下に有界)であることを次のように定める。
「ある実数Mが存在し、任意のn∈Nについてa(n)<=M(a(n)>=M)」
Def1.3(収束、発散の定義)
(a)数列{a(n)}がn→∞の時ある実数αに収束するとは、「∀ε>0, ∃n(0)∈N, s.t. |a(n)-α| < ε (∀n >= n(0))」
(b)数列{a(n)}がn→∞の時+∞に発散するとは、「∀M>0, ∃n(0)∈N, s.t. a(n)>M(∀n>=n(0))」
ここで、∀nとは任意のnという意味であり、∃nというのはあるnという意味である。また、s.t.とはsuch thatのことであるので「∀ε>0, ∃n(0)∈N, s.t. |a(n)-α| < ε (∀n >= n(0))」は「任意のε>0に対して、任意のn>=n(0)で|a(n)-α| < ε を満たすようなn(0)∈Nが存在する」と解釈する。
では問題演習をしよう
問1 n→∞の時1/n→0を示せ
示すべきことは「∀ε>0, ∃n(0)∈N, s.t. |1/n| < ε(∀n>=n(0))」である。
n(0) = [1/ε]+1とすれば、|1/n| <= |1/n(0)| = |1/([1/ε]+1)| < ε (∀n>=n(0))
よって示された。([x]はxを超えない最大の整数を表す。つまりガウス記号)
問2 n→∞の時n^2→∞を示せ
示すべきことは「∀ε>0, ∃M>0, s.t. n^2 > M(∀n>=n(0))」である。
n(0) = [√M]+1とすれば、n^2 >= ([√M]+1)^2 > M (∀n>=n(0))
よって示された。
問3 n→∞の時n^(1/n)→1を示せ。
示すべきことは「∀ε>0, ∃n(0)∈N, s.t. |n^(1/n) - 1| < ε (∀n>=n(0))」である。
a(n) = n^(1/n)とおく。1 - ε < a(n) は∀n∈Nについて成り立つ。a(n) < 1 + ε の両辺をn乗すると、n < (1 + ε)^n。(1 + ε)^n >= {n(n-1)ε^2}/2なので、n < {n(n-1)ε^2}/2 であれば、n < (1 + ε)^nが満たされる。よってn(0)=[2/ε^2+1]+1とすれば十分。よって示された。
以上が§1の内容である。